愛と認識との出発 過失 ――お絹さんへの手紙―― 一

私は清い人間ではありません。
私が悪いことをしたのなら、神様に赦（ゆる）しを乞わねばなりません。

私はけっしてミスチーヴァスな心で（このような心持ちはあなたにはいっても解（わか）らないかもしれません）したのではありません。私はもはや私ではありません。私はけっしてあなたが嫌ではありません。
恋を仕遂げることはなかなかたやすいことではありません。恋というあなたの心に描いていらっしゃるような美しいものではありません。
私とは似合いません。無理ではありません。あなたの心もまだ私は信ずることができません。あなたの美しい玉のごとき運命を私ゆえになりません。私はかいしょはなし、安らかな暮らし方のできる身分でもありません。あなたの考えていらっしゃるようなことはとても実行できる見込みはありません。
交わりをいつまで続けよう［＃「いつまで続けよう」はママ］ではありませんか。あなたも私も悪魔に乗じられてはなりません。

原典: 『愛と認識との出発』倉田百三