愛と平和を理想とする人間生活

理想などというものは、実現されるまでのその間が楽しいものであって、つまらぬものかもしれません。どんな人にも慾望や理想はいくらかずつは持っていましょうし、またそこに人生の面白味があるのではないでしょうか。

煩いのない静かなところに旅行して暫く落ちついてみたい――こんな慾望を持っていますが、さて容易いようで実行できないものですね。仕方がないから両様の好みを入れて一軒建てようということにして設計までいたしておりますが、ところ私達の理想に止まって実現されそうにありません。こうした些細な慾望や、理想は兎も角として、この地上に誰れもが求め、限りもなくのぞむものは平和と愛ではないでしょうか。ところの形は私達の理想とするものは、愛と平和の融合を措いてこの世の楽園は考えられないと思います。この世に争闘が絶えないと実現し難いものだと思います。親子間の愛――この世にたった一つしかないいきさつですらも、どれだけ円満にしょう。

原典: 『愛と平和を理想とする人間生活』 宮本百合子